関口小雨は机の前に座り、硬直したまま動けずにいた。 部屋の中央にそびえ立つ黒いコンデンサーマイク。その無機質な存在感が、彼の胸に重くのしかかる。ディスプレイの前には、数週間かけて完成させた音声データが映し出されている。 「現役JDの性癖大暴露スパンキング祭りバイブデオホ声絶頂地獄」 二本目のタイトルだ。 一本目の動画を投稿した時の記憶が、頭の中で不意に蘇った。 それは、期待に満ちた挑戦のはずだった。しかし、結果は無数の批判と嘲笑にまみれた地獄だった。 一本目のタイトルは「しっとりスケベな保健室の先生が密着童貞卒業えっち(藍色に染める)」。録音は外注で行い、収録した。編集ソフトを初めて触りながら悪戦苦闘し、少しずつ形になっていく音に胸を躍らせた。「これが誰かの癒しになれば」と願いを込めて、勇気を振り絞って投稿ボタンを押した日のことは今でも鮮明に覚えている。 だが、現実は甘くなかった。最初に寄せられたコメントが、彼の期待を容赦なく打ち砕いた。 「素人丸出し」 その一言が引き金となり、批判の連鎖が始まった。 「音質悪いなぁ」 「こんなの投稿するなよ」 次々に書き込まれる辛辣な言葉に、小雨は心が削られていくのを感じた。自分では「これがベストだ」と信じていた努力が、他人にとっては滑稽にすら映る。 動画の再生数は全く伸びず、コメント欄を開くたびに恐怖が襲いかかる。批判の言葉が脳裏にこびりつき、彼の中にわずかに残っていた自信を徹底的に蝕んでいった。 「自分には無理だ……やっぱり才能がないんだ……」 関口小雨はその音声をどうしようか考えあぐねたがし、深い後悔と自己嫌悪に沈んだ。 それから数か月、小雨は何度もやめようと思った。だが、それでも手を止めることができなかった。 録音する度に「あの時の批判が頭をよぎる」。編集を重ねる度に「どうせまた叩かれる」と思ってしまう。それでも、たった一つの肯定的なコメントが彼を救い続けた。 「この音、悪くないです。また聴きたいです。」 たった一人でも、彼の音を「悪くない」と感じてくれた人がいた。その事実が、小雨の心をギリギリのところで支えていた。 そして今、二本目の音声が完成した。 一本目の経験を元に、録音機材を見直し、編集スキルを磨き、納得のいく仕上がりになった。だが、動画を投稿する直前で、小雨の心は再び不安に蝕まれる。 「これでいいのか?」 「また叩かれるんじゃないか?」 画面に映る「アップロード」のボタンが、彼に重くのしかかる。指を伸ばしては引っ込める動作を何度も繰り返し、頭の中では批判の声がリフレインのように響く。 気づけば数時間が経過していた。時計の針は深夜を指している。部屋は雨音に包まれ、まるで世界が彼の不安を隠してくれるかのようだった。 「もう考えるのはやめよう……」 小雨は震える手で、ついに「アップロード」を押した。瞬間、全身の力が抜け、深い溜息が漏れる。 しかし、それは安心ではなく新たな恐怖の始まりだった。 「これからどうなるんだろう……」 再生数が伸びるたびに、コメント欄が埋まっていく光景が頭に浮かぶ。そこに書かれるのはどんな言葉だろうか? 罵声、嘲笑、それとも……希望的観測すら脳裏をよぎるが、それを打ち消すように現実の重みが彼の胸に圧し掛かる。 スマートフォンを机に置き、布団に潜り込む。それでも眠れない。鼓動が早くなるのを感じながら、小雨は深く息を吸い込んだ。 「きっとまた失敗するんだ……いや、でも……」 心の中で葛藤が渦巻き、朝を迎える。 次の日、小雨は恐る恐るスマートフォンを手に取る。コメント欄を開く勇気はまだ湧かない。再生数だけを確認し、驚きと恐怖が入り混じった感情が胸に広がる。 一本目を超える勢いで再生数が増えていることに気づき(だったらいいなぁ)、小雨の手が震える。だが、それが必ずしも良い兆候ではないことを、彼は知っていた。批判が再生数を押し上げることもあるのだ。 「コメントは……いや、やっぱり見られない……」 彼は机にスマートフォンを置き、深く座り込んだ。自分の背中を抱きしめるようにして、ただ時間が過ぎるのを待つ。 「これでまた叩かれたら、もう無理だ……」 それでも、小雨の心にはほんの少しの希望が残っている。それが彼をここまで動かしたのだ。 雨音が部屋の中に静かに響く。その音はまるで、小雨の迷いを静かに溶かしていくかのようだった。 雨はやがて止むだろう。だが、彼の心に降り続く雨はまだ止まない。これからどうなるのか、自分がどう動けばいいのか、全てが霧の中に包まれている。 そんな希望のストーリーにしてください。どうか作りたい作品があるんです。商業的に成功して次の作品へのステップアップとさせてください。よろしくお願いし
ます。よろしくどうぞ。どうにかうれると、今後につながります。今後ともごひいきによろしくお願いいたします。